今回は、日本国内の金属加工をしている中小製造業の工場が舞台です。
この工場のある加工工程では、昼班が2人、夜班が1人で作業していました。不景気によるリストラをきっかけとして各工程への作業者の割り振りの見直しを行い、この工程は夜班だけでなく昼班も1人の体制となりました。
社長は以前からこの工程はもっと効率的に作業ができると考えていたのですが、受注が旺盛だったこともあり、その生産対応で効率化に手が付いていませんでした。
作業者も現状を何も変えようとせず、自分の城としてゆるい作業にどっぷり浸かっていたと言うのが実状でした。しかし、不景気によるリストラが状況を変えることになりました。
その工程の作業者を2人から1人にしたことだけでも、ある程度の効率化になったのですが、社長は作業者に対してさらに効率化を求めました。要求はしたものの作業者の工夫・改善に多くは期待していなかったのもまた事実でした。
ところが、作業者1人になってしばらくすると、作業者からいっぺんに2つの改善提案が出てきたのです。
1つは、加工作業前の前処理をなくすこと。加工作業前に加工時の傷対策として加工材料にある前処理をしていたのですが、加工方法を改善することで前処理をなくしても傷の発生がないことが確認できたので、前処理を不要にしました。
さらに前処理をした場合、加工後にこの前処理を取り除く作業が必要になるのですが、前処理自体をなくしたので、この後処理もやらなくて済むようになりました。前処理、後処理とも不要という、大きな改善でした。
2つ目は、加工機を1人で2台持ちにすることでした。この工程の加工機は2台あり、以前は1人1台持ちで余裕を持って作業していました。作業者は1人になったが何とか2台動かしたいと考え、機械の配置を工夫することで常時2台稼働とはいかないものの、必要によって1人で2台を稼働させることを可能にしました。
この作業者にどのようにしてこの改善案を思いついたのかを聞いてみたところ「社長がとにかく効率化、効率化と言うので何とかしなくちゃと思って必死に考えた」と言っていました。
社長に深い考えがあったのかはわかりませんが、人を困った状況に置くと何かしらの工夫をするという典型的な事例でしょう。人を困らせるのも時に必要で有効に作用するものです。